大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和53年(ラ)991号 決定

抗告人 甲野太郎

右代理人弁護士 小野道久

事件本人 甲野春

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨は、「原審判を取り消す。」との裁判を求めるというのであり、その理由は、「抗告人は、右事件本人の保佐人として抗告人が相当であると思料するものであり、殊に事件本人の亡母甲野なつに怨嗟の念を持っていた甲野松男を保佐人に選任した原審判は、その選任を誤ったものである。」というのである。

そこで判断するに、記録によると次の事実を認めることができる。

(一)  抗告人(昭和一一年六月一二日生)は、事件本人甲野春(大正七年九月一八日生)の母甲野なつ(明治一九年一〇月一九日生)との間に養子縁組をなし、昭和四四年一二月一〇日その届出をした者である。

(二)  事件本人は、東京家庭裁判所昭和三三年(家)第九八二九号・第九八三〇号準禁治産宣告・保佐人選任申立事件において、昭和三三年一〇月二四日準禁治産の宣告を受け、同時に同人の保佐人として本籍東京都大田区○○○×丁目×番地×甲野竹雄(明治三一年六月一一日生)が選任された。

ところが、甲野竹雄は、昭和四五年一一月二日死亡し、その後は事件本人の母なつが事実上の保佐人としてその役をなしてきたが、なつも昭和五二年七月一七日死亡した。

(三)  そこで、抗告人は、昭和五二年一二月二〇日同裁判所に対し、事件本人の保佐人の選任を求める申立てをなし(同庁同年(家)第九五三七号事件)、同裁判所は、事実を調査の上、昭和五三年九月一日「事件本人の保佐人として本籍東京都大田区○○○×丁目×番地×甲野松男(昭和三年一月五日生)を選任する。」旨の審判をした。

(四)  そして、右審判の審判書謄本は、昭和五三年九月四日右甲野松男、同月二一日抗告人代理人小野道久にそれぞれ送達され、抗告人は、同年一〇月四日当裁判所に本件即時抗告の申立てをした。

ところで、家事審判法第一四条は、「審判に対しては、最高裁判所の定めるところにより、即時抗告のみをすることができる。」と規定しているところ、右規定は家事審判法第七条本文にいう「特別の定」に該当し、家事審判に関する非訟事件手続法第二〇条第一項の規定の適用を排斥しているものと解すべきであるから、家事審判手続については、最高裁判所の定める家事審判規則及び特別家事審判規則の規定に従い、即時抗告をすることができる審判及びこれをすることができる者が定められるべきものである。

しかして、保佐人に関する審判については、家事審判規則第九三条の規定により同規則第八三条から第八七条までの規定が準用されるものであるところ、右各規定のうちには、保佐人選任の審判に対して即時抗告をすることができる旨の規定がない(家事審判規則第三〇条において準用する同規則第二七条の規定によっても、準禁治産を宣告するとともに保佐人を選任する旨の裁判がなされた場合には、その審判に対して即時抗告をすることができることとなるにとどまり、しかも、この場合においても、本件におけるように、当該選任された者が保佐人として不相当であるとして、その選任に係る部分に対し独立して不服の申立てをすることはできないものと解される。)から、本件審判に対しては即時抗告をすることができないものといわなければならない。

そうすると、抗告人の本件抗告は不適法であるから、これを却下することとし、抗告費用を抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 貞家克己 裁判官 長久保武 加藤一隆)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例